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February 0422014

 手を振れば手を振る人のゐて立春

                           佐怒賀直美

ち合せ場所に相手の姿を見つけて大きく振る手には喜びがあふれ、別れ際に振る手には名残惜しさが込められる。どちらも同じ動作だが、掲句の「立春」の溌剌とした語感は、ものごとの始まりを思わせ、若々しいふたりの姿が浮かび上がる。古来から「領巾(ひれ)振る」や「魂(たま)振り」などの言葉があるように、なにかを振ることは相手の視覚にうったえる動作であるとともに、空気を振動させ神の加護を祈ったり、相手の魂を引き寄せたりする意味も持つ。まばゆい早春の光のなかで交わされた合図は、まるで春を招く仕草にも見えてくる。春は名のみの凍えるような日のなかで、今朝からの「いってらっしゃい」は、春の女神へも届くように、いつもより大きく振ってみよう。「塔・第9巻」(2014)所載。(土肥あき子)




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